新型コロナウイルスと格差
新型コロナウイルス感染症の大流行は 前代未聞の危機です。ほんの数ヶ月でほぼ全ての大陸に広がり、数百万人が感染し、数十万人が亡くなりました。
世界の半分 が封鎖され、市場や社会は大混乱に陥っています。
この疫病が過ぎ去ったとしても、人類全体がこの先何年もその影響を受けながら生きていくことになります。しかし、私たちが支払う代償は立場により大きく異なります。
UNDPの新たな推計によると、世界の教育、健康、生活水準を総合した尺度である人間開発指数は、1990年の統計開始以来、今年初めて、低下する恐れがあります。豊かな国も貧しい国も含め、すべての地域の大多数の国で低下が予想されているのです。
露呈した弱点
感染症の拡大によりあらゆる社会で弱点が露呈します。新型コロナウイルスが発生する以前から、拡大する格差は根深い問題となっていました。
私たちは、新型コロナウイルスによる社会・経済的影響の始まりを目の当たりにしているに過ぎません。国連開発計画(UNDP)の データ・ダッシュボードを見ると、準備と対応の能力のレベルが国により大きく異なることが明らかになっています。
発展途上国や危機的状況にある国、それに加えて、インフォーマル経済に依存している人々、女性、障がいを持つ人々、難民、避難生活を送る人々、そして偏見に苦しむ人々など、世界中のすでに脆弱な立場にある人々が最も大きな打撃を受けることになります。
- ILOによると、インドだけでも4億人以上がインフォーマルな仕事に頼らざるを得ないため、貧困に陥る危険性があります。
– アヒム・シュタイナー UNDP総裁
後もどり?
新型コロナウイルスは、国の内外を問わず、持つ者と持たざる者間の格差を無慈悲にも露呈させています。
世界の半数以上の人々が必要不可欠な医療サービスを受けられず、社会保障もほとんど、あるいは全く受けられない状況では、ウイルスは肥沃な狩場を見つけることになるでしょう。約1億人の人々が、医療を受ける余裕がないために極度の貧困に追い込まれています。
UNDPのデータによると、先進国の病院のベッド数は55床で、人口1万人に対して医師が30人以上、看護師が81人います。
発展途上国では、同じ人数の人々に対して、ベッド数は7台、医師は2.5人、看護師は6人です。
石鹸や清潔な水などの基本的なニーズでさえ、あまりにも多くの人にとって贅沢品となっています。
都市封鎖はまた、情報格差 (デジタル・ディバイド)をより鮮明にしています。何十億人もの人々が信頼できるブロードバンド・インターネットを使用できないため、仕事をしたり、教育を受けたり、愛する人と交流したりする能力が限られています。
教育面では、学校が閉鎖され、オンライン学習へのアクセスで大きな格差が明らかになる中で、UNDPの推計によると、人間開発低位グループ諸国では、小学生の86%が事実上、学校に通えなくなっていますが、人間開発最高位グループ諸国では、この割合が20%にとどまっています。
学校が閉鎖されることで、実効非就学率は1980年代以降に見られなかったレベルにまで後退する可能性があるとUNDPは推定しています。それは持続可能な開発目標(SDGs)、さらにはミレニアム開発目標以前の時代に私たちを連れ戻し、過去30年間の努力と進歩を脅かすことになります。
アフリカの未知数な未来
アフリカでは新型コロナウイルスの感染拡大のペースはゆるやかですが、壊滅的な結果をもたらす可能性があります。
アフリカに住む人々の56%が 過密で不衛生な環境で生活しており、水道があるのは34%の世帯のみで、労働力の71%が非正規雇用に頼っています。
ケニア、タンザニア、カーボヴェルデの農村地域はすでに観光業の崩壊によって大きな打撃を受けています。
「新型コロナウイルスが若年層や暑い気候にどのように作用するかなど、アフリカには未知のことがたくさんあります。政府は最善を尽くしていますが、構造的な現実があるため、対応は非常に困難です。」
– UNDPナイジェリア常駐代表モハメド・ヤーヤ
最悪の場合、約2000万人の雇用と最大330万人の命が失われる可能性があります。また、国連は、急激な食料不安に直面している人々の数が倍増する可能性があると推定しています。
第一線で活躍する女性たち
医療危機の際には、特に女性が危険にさらされます。女性は、最前線に立つ医療従事者の大部分を占めています。在宅で働いている場合は、家事や育児の負担はさらに大きくなり、また非常に多くの場合、パートナーと一緒にいることでより大きな危険にさらされているのが現状なのです。世界的に封鎖の結果としてドメスティック・バイオレンス(DV)が 急増していることを示す証拠は数多く存在しています。
「パンデミックに対応する際には、女性の安全を第一に考えるよう、すべての政府に強く求めます。」 – アントニオ・グテーレス国連事務総長
UNDPメキシコ事務所は政府と協力し、新型コロナウイルスの影響が男女で大きく異なることを市民が理解し、女性と女児を支援し保護するための政策を策定できるよう支援しています。
最も支援を必要としている人のための迅速な対応
格差と貧困の解消を活動の柱とするUNDPは、各国がパンデミックに備え、対応し、パンデミックから完全に復興するための支援を行うことができる独自の強みを持っています。
私たちは、新型コロナウイルスによる社会的・経済的打撃の評価を迅速に実施しています。これにより、各国政府は、特に不利な立場にある人々や社会的に疎外された人々のために、緊急の復興措置と長期的な社会保障を行うことができます。
UNDPは、72時間以内に資金を提供するために3,000万米ドルの迅速対応ファシリティを設立し、その結果83カ国以上が恩恵を受けています。
この制度を用いて、ブータン、コートジボワール、イエメンなど20カ国では、政府が遠隔で作業できるようにIT支援が行われました。
162カ国を網羅する社会経済復興計画が来年中に行われる予定です。
UNDPのイスラム金融イニシアチブは、パンデミックのあらゆる段階で支援することが可能で、最初は生活の苦しい世帯が貧困に陥るのを防ぐために、即時の現金支払いを提供します。
UNDPのアクセラレータ・ラボが持つ78カ国にまたがるネットワークは、紛争が続くリビアを含め、日々湧き上がる課題への答えを見つけるために日々奮闘しています。
「リセット」を押す
「この世の不幸というものに関して事実であることは、ペストの場合にも事実である。それはある人々を大ならしめるために役立つことがある。」
– アルベール・カミュ
歴史は、疫病が現状を打破する絶好の機会を提供してくれることを示しています。
新型コロナウイルスは、地球だけでなく、私たち自身にとって、これまでの生活がいかにもろく、破壊的であるかを浮き彫りにしています。
健康、経済、社会的側面を考慮に入れた組織的な対応が不可欠です。
この危機がSDGsにどのような影響を与えるかを完全に評価することはまだできませんが、UNDPは社会経済的な対応を主導し、これまでに築いてきた進歩を土台に、前例のないこの状況をひとつの機会として、すべての人にとって持続可能な未来を築くために全力を尽くしていきます。
Image 1: Talukdar David/Shutterstock.com
Image 2: UNDP Turkey/Levent Kulu
Image 3: UNDP Côte d’Ivoire/Gedeon Pooda
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